私はこの前、生まれて初めてお財布を忘れた。
近くのスーパーに行ってコロッケの材料を買おうとしたのに、バッグには何も入っていなかったのだ。

ただ私の脳内には「山崎怜奈ちゃんが卒業する」という事実しか詰まっていなかった。

お財布を忘れる30分ほど前のことだ。
買い物に行く用意をして、習慣的にTwitterを開いた時。

「卒業」の2文字が直ぐに目に飛び込んできた。そしてその2文字の下の「 #ダレハナ 」という文字はやけに強調して見えた。

慌ててTLを更新すると、フォロワーさんたちの「れなち卒業」のツイートが並んでいた。

正直なところ、私は山崎怜奈ちゃんの卒業発表は驚かないだろうとタカをくくっていた。
しかしながら現に手はどんどん冷えていって上手く文字を打つことすら出来ない。

いつかこの日が来ることは分かっていた。
なんなら、アイドルを推す、とはそういうことだということも。

でも私の頭はそれを受け入れようとしなかったのだ。

なんで？どうして？いつ？卒業するに至った決め手は？…

疑問符ばかりが渦を巻いて、視界に入った文字をずっと眺めているだけだった。

ようやくなんとなく処理し始めた脳は「むしろよくここまでグループに在籍してくれた」という思いでいっぱいになった。
本来ならとっくに卒業して、その先でも上手くやっていけたと思う。
それでも乃木坂を拠点として活動してくれたことが嬉しかった。

ただやっぱりその分、寂しかった。

気づいたら、泣いていた。

鈴木絢音ちゃん推しの姉の元へ行き「れなち、卒業するって」と伝えた。
姉も驚いた様子で「マジか…」と言っていた。

このタイミングでラジオを聴くと中途半端になりそうだったから、ラジオが終わるのを待つことにした。
この時、なぜかずっと頭には「ひと夏の長さより…」がかかっていた。

とりあえずコロッケを作ろうと思った。コロッケが食べたくて昨晩からレシピを見て買うものをリストアップしておいた。

それなのに、お財布を忘れたのだ。

家に戻る道中も、買い物の最中も、お昼ご飯を食べている時も、ずっとずっとみんなのツイートを追った。

れなちはもうライブには出ないこと。
7月17日で卒業すること。
卒業しても乃木坂LLCにはしばらく残ること。
ラジオやエッセイのお仕事は続けさせてもらえること。

色んな発表が流れてくる。
私はそれをどうにか受け止めようと頭の中を整理しながら見ていく。

そしてラジオが終わり、コロッケを作りながらタイムフリーで聴き始めた。

冠番組で、帯の時間で、自分のラジオで卒業発表をする推しを、改めて誇りに思った瞬間だった。

言葉を詰まらせながら、一つ一つ大切に紡がれていく想いを聴くと、簡単に「辞めないでよ」なんて言えなかった。

それは今まで山崎怜奈ちゃんがどんな思いで活動してきたか、全てではないけどそれなりに見てきた自信はあるから。

でも寂しさは溢れるし、玉ねぎは染みるし、やっぱり涙は止まらなかった。

本当に、ひと夏の長さより思い出だけ多すぎるんだもん。

「言葉」はとても便利なツールだ。だからこそ扱いには気をつけなければならない。

そして山崎怜奈ちゃんはその「言葉」を使うのが非常に綺麗で上手だった。

だからこそ色んなラジオを任されているし、素直に信じることが出来る。

「ら抜き言葉」を使わないところや、鼻濁音を発する時の綺麗さ、コラムやエッセイなどで分かりやすく、時には知性溢れる文章を書き上げられるところ。

そんな山崎怜奈ちゃんの言葉だからこそ、胸に、心に刺さるのだ。

ラジオで卒業を発表した後の山崎怜奈ちゃんはスッキリしたような声色だった。
それを聞いて私は「ああ、本当に卒業するんだな」とようやく理解した。

そして卒業までの日の短さを認識した。

彼女がアイドルで居られる日は、残りわずか。
山崎怜奈ちゃんがアイドルでいてくれる日は、もう少ない。

私たちファンは色んな言葉を「おすそわけ」されてきた。今現在もそうだ。

山崎怜奈ちゃんからファンへ「与えられた言葉」は沢山ある。

では、こちらから山崎怜奈ちゃんに「与えれた言葉」はどれほどあるだろうか。

そんなことを考えなくても、彼女の言葉の節々からはファンのことをどう思っているかは痛いほどに分かる。

正直言うと、今まで色んなアイドルを応援してきて、1番ファン想いなアイドルだと思っている。

それはまだ研究生だった時から、今日に渡るまでずっとずっと、そう思っている。

勿論「握手会で顔を覚えてくれていた！」だとか「ライブでレスをくれた！」など、そういう部分でも彼女のファン想いな部分は垣間見えるが、私の中では「ファンへの信頼が厚い」というのが1番だった。

自信が無い時は素直に「応援して欲しい」「頑張れっ！て言って欲しい」「背中を押して欲しい」と言ってくれるところ。

そして何かを頑張る時には「頑張ります」よりも「一緒に頑張ろう」と言ってくれるところ。

「アイドルとファン」よりも「人と人」として接してくれる。他人ではなく、きちんと「一人の人」として会話を楽しんでくれるのだ。

というかきっと彼女は会話するのが好きなんだと思う。純粋に自分の知らない人や世界を知ることが好きで、その好奇心がきっと今の仕事に繋がっているのだと思う。

7月17日。
私は奇跡的に1枚だけミーグリの券がとれた。たった1枚、されど1枚。物は言いようだ。

1枚あたり約10秒らしい。
そのたった10秒で何を伝えようか、何を伝えられるのだろうか。

でもきっと、いつもみたいに友達感覚で話してくれるだろうし、いつもみたいにあっという間に終わるのだろう。

ただ絶対に大切な言葉は、伝えたい。

先述したように「言葉」は便利なツールだ。だからこそ扱いには気をつけなければならない。

でもだからこそ、たった一言でも気持ちは伝わるはず。

私は山崎怜奈ちゃんのように上手くは話せる自信はないけど、ただファン想いな山崎怜奈ちゃんならきっと、この一言で、思いを汲み取ってくれると信じている。

「有難う。」

2022.7.6 ちゃんばぁ